将棋やチェスといったゲームで「天来の妙手」や「世紀のゲーム」と呼ばれ後世に語り継がれる名手、名局はいくつもあります。
ではポーカーで後世に語り継がれるプレイはなにかというと、その後のポーカー人気に大きな影響を与えた、クリスマネーメーカーという男の「世紀のブラフ」と呼ばれるクレイジーなプレイが真っ先に挙げられます。
4,000円で2億8千万円を獲得した男が放った世紀のブラフの内容をポーカーのルールを全く知らない人にも伝わるよう紹介していきたいと思います。
Contents
ポーカーといえばテキサスホールデム
(この画像は手前側がAAATTのフルハウスで向こう側がTTTAAのフルハウス)
日本ではポーカーと言えばまず5枚配られてその中から好きなカードを交換できる「5ドローポーカー」です。
しかし世界的にはポーカーと言えば、2枚配られて共通カード5枚の合計7枚を組み合わせて戦う「テキサスホールデム」です。
ワンペアよりツーペアの方が強いなど役のルールは5ドローポーカーと変わりません。
手元に配られるのが5枚か2枚かの違いですが、5ドローポーカーよりはるかにゲーム性が上がり、実力が反映しやすいゲームになっています。
世紀のブラフの舞台
これから紹介する世紀のブラフが行われた舞台は、2003年のWorld Series of Poker(WSOP)というポーカーの世界大会で、ファイナルテーブルのヘッズアップという1番盛り上がる舞台です。
ヘッズアップというのは1対1の戦いのことを言い、参加者839人のうち837人が全てのチップを失って敗退しており、優勝者を決めようという場面です。
優勝賞金は2億8千万円
ポーカーはスポーツなど含めた中で「世界で1番賞金が高いゲーム」と言われていて、2003年度のWSOPの優勝賞金は250万ドルでした。
日本円にすると約2億8千万円です。
ちょっと目がくらむ金額ですよね。
しかし参加費もバカ高く、1万ドル(約111万円)と普通の人には参加ができないような金額になっています。
ちなみにWSOPは毎年開催されており、1番賞金が高い年はなんと13億円を超えています。
アマチュアプレイヤーのクリスマネーメーカー
ポーカーの世界ではポーカーの賞金だけで生活をしているポーカープロがいます。
しかし世紀のブラフを放ったクリスマネーメーカーはアマチュアで、参加費も1万ドル払ったのではなく、サテライト(予選)を何回も勝ち抜けて決勝戦の舞台まで登りつめました。
ポーカーの世界ではお金のない人が高額な参加費のトーナメントに参加できるように少額の参加費の予選を開催してごく限られた人数だけ本戦に進めることができるようになっているのです。
そのため、クリスマネーメーカーがこの大会で払った参加費は39ドル(約4000円)と一般人にも普通に払える金額にしか使っていませんでした。
クリスマネーメーカーは決勝戦の舞台に上がるまでに強気なブラフを多用し、ポーカーの世界で最強と呼ばれるフィルアイビーをも倒し、のし上がってきています。
ちなみに英語だとChris Moneymakerと書くのですが、Moneymakerってポーカープレイヤーにぴったりな凄い名前ですよね・・・!
世紀のブラフの解説
それではいよいよクリスマネーメーカーの世紀のブラフを解説していきます。
サングラスに帽子を被っている方がクリスマネーメーカーです。
そしてスーツ姿の男が決勝戦の対戦相手、ポーカープロのサム・ファーハです。
プリフロップ
ポーカーは通常自分を合わせて9人で戦うもので、敵が8人もいるとかなり強いハンドが来ないと参加することができないです。
例えばカードの中で1番強いAとK,Q,Jの絵札の組み合わせや、66やJJなど手札の中でワンペアができているポケットペアなどが強いハンドです。
しかし敵は1人しかいないヘッズアップではそんなに強くないハンドでも戦うことができます。
今回配られたのはマネーメーカーにKと7、サム・ファーハにQと9でした。
9人戦ならほとんど戦うことのできないハンドですが、ヘッズアップではお互いにそれなりに強いハンドと言えます。
マネーメーカー →勝率:57%
サム・ファーハ →勝率:42%
互いに配られたハンドはそこそこ強いのでプリフロップの段階で降りることはせず、戦いに移ります。
フロップ
テキサスホールデムでもっとも形勢が動くのがフロップです。
なぜならいきなり3枚カードが追加されるので、この場面でかなり強いハンドともう強くなりようがないハンドとはっきり差がつくこともしばしばあるからです。
この場面でもその通りに命運が分かれ、ボードに出たのはサム・ファーハにかなり有利なカードでした。
マネーメーカー →Kハイ 勝率:18%
サム・ファーハ →9のワンペア 勝率:81%
サム・ファーハはボードで1番高い数字の9のワンペアをヒットさせ、「トップペア」と呼ばれるヘッズアップとしてはかなり強い役を手にしました。
一方マネーメーカーは完全なブタで、ここからサーファを逆転するためにはKをヒットさせないといけません。
この場面でのマネーメーカーの勝率は18%しかありません。
この自分にとって有利なフロップを見たサム・ファーハはチェックというアクションをとります。
チェックはベットもフォールド(降りる)もせずに様子を見るアクションですが、サム・ファーハはポジションが悪いためこのようなアクションをとっています。
ポジションというのはポーカーで重要な概念で、要するに「アクションを後出しできるかどうか」ということです。
ポーカーは相手のアクションを見たあとに行動できるいわゆる後攻が非常に有利なので、サム・ファーハはフロップの段階では攻撃を選ばなかったのです。
サム・ファーハのチェックを受けたマネーメーカーはハンドではかなり不利ですが、後攻という良いポジジョンを持っているので、無理に攻めずチェックを選びました。
2人共様子見の選択を取ったので、ここでは攻撃をし合わずに4枚目のカードを見に行きます。
ターン
4枚目のカードが見えるターンです。
テキサスホールデムとしては中盤戦といったところ。
出たカードはスペードの8でした。
マネーメーカー →Kハイ+ストレート、フラッシュドロー 勝率:38%
サム・ファーハ →9のワンペア 勝率:61%
これはマネーメーカーにとって非常に有利なカードで、現状はまだブタですが、次にスペーが出ればKハイフラッシュとなり、5か10が落ちればストレートになります。(5,6,7,8,9か6,7,8,9,10)
フロップの時点では18%しかなかった勝率がターンのスペードの8が出たおかげで38%にまで上がっています。
この時点でマネーメーカーが5枚目でヒットさせればサム・ファーハに勝つことのできるカードが以下になります。
Kが3枚、10と5で8枚、その他のスペードが5枚で合計16枚です。
自分のカード2枚と敵の見えないカード2枚、そして共通で使えるカードが4枚が使われているので、残り44枚のカードのうち、16枚が自分の勝ちになるカードという計算になります。
しかしサム・ファーハから見ればまだ9の1番強いワンペアを持っており、自分もQハイフラッシュのドローがあります。
QハイフラッシュはKとAハイフラッシュに負けますが、相手がKとAのスペードを持っている可能性はあまり高くないため、ポジションは悪いですがベットをして攻撃を仕掛けていきました。
ここまでは普通の展開なのですが、ここから驚きの展開を迎えます。
まずサム・ファーハのベットに対してマネーメーカーがレイズを仕掛けたのです。
レイズとは相手のベットに対してチップを倍賭けする超強気のアクションです。
ターンで勝率は上がったとはいえ、現状まだブタなのでこれも一種のブラフです。
普通の人ならこの場面ではコール(相手と同額のチップを出す)というアクションを選び、安く5枚目のカードを拾いに行くところです。
しかしマネーメーカーは普通ではありません。レイズをして相手にプレッシャーをかけにいきました。
サム・ファーハとしてもトップペアとQハイフラッシュのドローがあるのでレイズを受けてもこの場面で降りることはできません。
マネーメーカーのレイズにコールをして運命の5枚目のカードを見にいきます。
リバー
5枚目のカードが見られるのがリバーです。
これで全てのカードが場に出揃い、これ以降は運の要素が全くないため、互いの持つハンドの勝敗がはっきりと決まります。
落ちたカードはハートの3で、マネーメーカーに望むカードが出ませんでした。
この3が落ちることによって形勢が変わったとは考えられず、サム・ファーハは自分のハンドが勝っていると思ったはずです。
マネーメーカー →Kハイ 負け
サム・ファーハ →9のワンペア 勝ち
しかしターンでレイズという強いアクションをされているため、まずは様子見のチェックのアクションを取ります。
ここでマネーメーカーもチェックをすればショーダウンとなり、9のワンペアを持っているサム・ファーハの勝利になり、この場で賭けられた全てのチップを手にすることができます。
しかしここでマネーメーカーは宣言します。「オールイン」と!
なんと優勝賞金約2億8千万円がかかった場面で狂気のブラフオールインを決行したのです!
オールインは手持ち全てのチップを賭ける最強のアクションで、ポーカープレイヤー皆が恐れるアクションと言えます。
自分が100%勝っているハンドなら喜んでコールできますが、サム・ファーハの持っているハンドはただのワンペアです。
テキサスホールデムでは7枚組み合わせたカードの平均手役がツーペアと言われているので、ワンペアは強い手とは言えません。
サム・ファーハとしては、
- 5か10が落ちれば7の1枚持ちでストレートが完成するため、リバーで攻撃されたらフォールド。
- スペードなら自分もQハイフラッシュはまあまあ強いので攻撃されたらコールする
というプランをターンでレイズされたときに持っていたと思います。
しかし実際はハートの3という関係のないカードが落ちたにも関わらずオールインというトーナメントの優勝を賭けた決断を迫られています。
実際はKハイのブタだとわかっていますが、もしサム・ファーハの立場になって相手のハンドが何か分からない、コールしてもし負けていれば2位決定という場面。
しかしコールして勝てば優勝はほぼ確実で、1位と2位には1億円の差があります。
サム・ファーハのフォールドでマネーメーカーの勝利!
オールインを宣言されたとき、サム・ファーハは明らかに動揺しています。
そして少し考えてからマネーメーカーに「フラッシュを引き損なったんだろ?」と問いかけます。
しかしマネーメーカーは動じず。
プロを相手に少しでも動揺した素振りを見せればブラフを見抜かれてしまいます。
しばらく考えたサム・ファーハはしぶしぶフォールド。
Kハイという完全なブタでブラフに成功し、多くのチップを獲得し優勝へ大きく前進しました。
そして次のハンドで、マネーメーカーがフルハウスを引く幸運に恵まれ、アマチュアの男が39ドルの参加費で約2億8千万円を手にするというまさにアメリカンドリームを掴みました。
マネーメーカーによるポーカー人気
ターンでのレイズ、そしてリバーで狂ったようなオールインをし、その後一切動じないマネーメーカー。
アマチュアがプロをブラフで降ろし、結果優勝するという姿がテレビで放送され、ポーカーファンのみならず、ポーカーを知らない人にも、
「自分もあのアメリカンドリームを掴みたい!」
と思わせたことは想像に難くないでしょう。
事実2003年には839人しか居なかった参加者が、翌年2004年には2576人となり、その次は5619人、その次は8773人と参加費1万ドルのトーナメントに参加する人が激増しました。
現在も約10億円の優勝賞金で毎年トーナメントが開催されているので、ポーカー人気に衰えは見られません。
それもマネーメーカーが見せたKハイでの「世紀のブラフ」が始まりだったのです。
まとめ
世紀のブラフと呼ばれるクリスマネーメーカーの完全ブタでのブラフを紹介しました。
この世紀のブラフはポーカーというゲームがプレイされなくなるまで間違いなく語り継がれるプレイだと思います。
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